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【ビューティテック最前線】第22回:顧客も商品もデジタルも全方位で猛攻するユニリーバの戦略(国際商業12月号)

November 19,2019

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アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。

そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。

 

国際商業とは
1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。
http://www.kokusaishogyo.co.jp/kokusai_syougyo/

今回は2019年11月7日発売、国際商業12月号に掲載されたものをご紹介します。

 

今年8月に米主要企業の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが出した”Statement on the Purpose of a Corporation”で注目を集めている「パーパス(社会における自社の存在意義)」をいち早く経営に取り込み、企業文化の中心に据えているユニリーバ。

2019年6月に、日本文化に着想を得た米国のD2Cブランド、TATCHAの買収発表で美容業界を驚かせた。2015年以降、韓国の有力ブランドであるカバーコリアなどビューティ関連で14件と立て続けに買収を行ってきているユニリーバを分析すると、途上国と先進国の両方を、低価格帯から高価格帯までの製品をそろえることで獲得する全方位戦略をとっていることがわかる。また、SmartLabelで香料成分を法令以上に開示したり、広告の透明性、信頼性にブロックチェーン技術を活用するなど、利便性よりも倫理やサステナビリティへのデジタル投資を積極的に行っている。

ボルトオンM&Aで、先進国における成長領域へ投資

先進国では、消費の中心となっているミレニアル世代が求めるナチュラル志向やリュクス製品が不可欠だ。しかし、ユニリーバは、Doveなどの低価格帯ブランドのイメージが強く、プレミアムブランドを想起しにくい。

自社開発を模索した時期もあるが、歴史をさかのぼると、研究所発の技術を商品化するもスケール化できず撤退したり、CVC等を通じて事業育成しようと試みるも結果が出せないなど、失敗事例が数多い。

そこで、5年ほど前から、ボルトオンM&Aと呼ばれる既存事業の補完となる事業の買収を戦略の中心に据えた。成功が見えているラグジュアリーやナチュラル系ブランドを買収することで、顧客と知名度を得るのだ。そして、自社の持つ販路を活用し、世界に効率的に販売していくことで、売上・利益を確保する狙いだ。

これまでに買収した企業は、スキンケアからメイクアップまで、また、K-Beautyをはじめ、ナチュラルスキンケア、プロフェッショナル向け、ヘアケアなど幅が広い。買収によって、製品ポートフォリオを充実させているのだ。

ソーシャルイノベーションで途上国の市場開拓

ユニリーバが、中長期的な視点で、パーパスを持って実施しているのが、途上国のソーシャルイノベーションを活用した市場開拓だ。この取り組みが、ユニリーバを途上国からの売上比率世界トップクラスに押し上げた。

2000年にユニリーバの現地法人Hindustan Unilever Limited(通称HUL)が「プロジェクト・シャクティ」と呼ぶ、インド農村部で女性の経済的自立支援のための職の提供、教育の提供を開始している。

背景には、インドの都市から離れた農村部では、交通網・販売網が発達していなく、ユニリーバの販売網の構築に苦戦していたことがある。インドの農村部では、衛生の悪さなどから乳幼児死亡率が高く、女性の経済的自立の問題もあったので、HULは社会問題に解決の糸口を探した。

そこで、インドに数百万ある女性自助会に参加し、彼女らに簡単な商業知識や簿記などを教育し、10,000~15,000ルピー(約1万5千円~2万5千円)を貸し、そのお金で彼女たちはユニリーバ製品を仕入れ、近隣の村で販売するように促進した。低所得者が購入しやすいように低用量低価格のパッケージも導入し、開始からわずか5年で7,000万人の新規顧客を獲得し、農村地域での売上につなげた。その後この活動をバングラデシュ、ベトナム、スリランカ、エジプトなどのでも展開している。

衛生用品拡充による子どもの生存環境整備や女性のエンパワーメントなど、社会問題へ継続的にアプローチする姿勢が、アクセスのしにくい農村部での販売網の構築だけでなく、ユニリーバブランドを選択するという競争優位性を築く結果となった。

この戦略は先進国でもプラスに働いている。社会的課題に対して中長期に取り組む企業を自身で選択し、そこのブランドを購入するミレニアル世代に高い評価を受けて、シェア拡大につながっている。

デジタル技術を倫理的社会的問題解決に使う

一方でユニリーバは、デジタライゼーションで顧客の信頼を勝ち得ることにも力をいれている。

たとえば、業界全体でのデジタル広告の透明性確保に向けた指針を打ち出し、IBMなどと協業しブロックチェーンを活用したデジタルメディア取引の追跡システムを使用し、信頼性の低いメディアへの出稿を食い止めると同時に無駄な広告コストを削減するなどの具体的施策にも積極的に取り組んでいる。また、ユニリーバ・ジャパンの社内ベンチャー制度から、スマホから髪診断に回答すると、各自に最適な処方のシャンプーとトリートメントを割り出し、ハンドメイドで調合後、研究所から直送するパーソナライズ・シャンプー「Laborica(ラボリカ)」をローンチするなど、積極的にデジタル技術を活用している。

課題は買収した数多くのブランドの成長の実現

パーパスを掲げ、全方位戦略をとっているとはいえ、隙がないわけではない。M&Aの規模は小さいものの、数が多いため、統合には時間も手間もかかる。買収後顧客離れに歯止めがきかず破綻した企業の事例は枚挙にいとまがない。いかに買収した企業を取り込み、パーパスを実現するブランドに成長するのかがこれからの課題といえよう。

 

BeautyTech.jp編集部
矢野貴久子
https://beautytech.jp/

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国際商業 2019年12月号より転載

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