【ビューティテック最前線】
第7回:AI技術がつくる、「ゆるさ」が愛される
(国際商業9月号)
August 29,2018
アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。
そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。
国際商業とは・・・
1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。
今回は2018年8月6日発売、国際商業8月号に掲載されたものをご紹介します。
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AI技術がつくる、「ゆるさ」が愛される
AIのディープラーニングで、サービスの使い勝手にある種の〝ゆるさ〟=〝心地よさ〟をもたらして、ダウンロード数を伸ばしている女性向けアプリがある。ひとつが、ヘルスケアアプリの「FiNC」、もうひとつが美容好きな女性向けのクチコミアプリ、「LIPS」だ。
なんかいい感じ、をAIのアルゴリズムがつくる
「FiNC」はApp Storeの「ヘルスケア」カテゴリで、リリース後半年もたたないうちに1位を獲得。2018年7月現在ですでに累計250万ダウンロードを突破し、1位常連アプリとして堅調にその数をを伸ばしている。
一方の「LIPS」もサービスローンチから1年半で100万ダウンロードを突破し、数々のメディアでも紹介され順調に成長している。 どちらのアプリにも共通しているのが、ゆるさ、居心地のよさ、そして継続性だ。その「なんかいい感じ」という言語化しにくい雰囲気をつくっているのが、AIによるディープラーニングと、緻密なサービス設計である。
AIトレーナーからゲーム要素まで
「FiNC」ではパーソナルトレーナーAIの「フィンクちゃん」が、ユーザーに寄り添う。アプリダウンロード時にユーザーが登録するダイエットの悩みや目標、日々の睡眠や食事、歩数、体重、生理周期などから、個人に最適化されたヘルシーなレシピや、フィットネス(動画コンテンツ)を、チャットボット形式で教えてくれる。
また、歩数や体重を記録すると、それらがポイント付与され、ある程度たまると同社が運営するECモールにて、ヘルスケアや美容関連商品を購入することもできる。ユーザーからすれば「これならできるんじゃない?」と、何とかできそうな目標を設定され、達成できればポイントのご褒美があり、かつ励ましあえるコミュニティもある。日々の頑張りはグラフ化され、ウォーキングにはゲーム要素もあり、とにかく楽しんで取り組めるつくりになっているのだ。
「FiNC」の創業者であり、スポーツジムのパーソナルトレーナーだった溝口勇児氏は、大半のユーザーがジムに通っても半年で辞めてしまう状況をよく理解していた。だからこそ、アプリで継続しやすいダイエットサポートビジネスを開始し、いかに楽しく、時間と場所に制約されずに続けられるかにこだわった。仕事や子育てで忙しい女性たちがスキマ時間を見つけてがんばれるような雰囲気づくり、世界観をみごとにつくりあげている。
美容好き同士のゆるいつながりを生むアプリ
「LIPS」も生みの親のひとりである取締役の松井友里氏が、コスメを探した自身の経験や、10〜20代の若い女性たちからの情報を集めてその設計をつくりあげた。
それまで彼女が主に使っていたのは、本音の美容情報が多いといわれるいわゆる「美容垢」があるツイッターだ。ただ、文字制限やタイムラインで次々に流れていってしまうことなどから、ファッションの人気アプリ「WEAR」の美容・コスメ版を作れないか、という発想からスタートしている。 ユーザーは、商品を探しにくるのではなく、「この人素敵かも」とフォローし、コメントをするなどしてゆるゆるとつながっていく。商品に基づくクチコミというより、起点が〝人〟であることが大きな特徴のひとつだ。
人に対する共感が購買につながりやすい
特にこれといった目的がなくてもなんとなくアプリを開き、そのユーザーがフォローしている人が勧めている商品が目にとまる。ついつい見ていくと、他の人も勧めている。じゃあ、明日はドラッグストアに寄って購入してみようというのが一般的なユーザーの動きだ。
これが意味するのは、いままでそのブランドやアイテムとは縁がなかった潜在層にも届きやすいということだ。その結果、「93%のユーザーがアプリ閲覧後にコスメ購入経験がある」という調査結果になっている。ゆるいとはいえ、そこでの人に対する信頼や共感が、購買への背中を押すのは間違いない。
LIPSのタイムラインはAIによってパーソナライズ化されており、登録時の年齢や肌質、好きなブランド、そしてどんな人をフォローしているかなどの使用履歴によって、最適化されていく。その結果、「なんか私にしっくりくる」「知らないうちにどんどん見てしまう」というサービスを実現した。
使う人の気持ちに寄り添う技術の使い方
「FiNC」も「LIPS」も、どちらも漠然とした「きれいになりたい」というニーズを捉えた。とくに「LIPS」は、マーケティングの世界で取り込むことが難しいと言われるいわゆるZ世代のユーザー層が厚い。
自分が「こうなりたい」とはっきりした目的を持つユーザーに応えるサービスが多いなかで、なんとなくの気持ちに寄り添い、ゆるっとした空間で心地よくサービスを使い続けてもらう。注目すべきは、言語化や定量化がしにくい「なんとなくよい」という世界観がテクノロジーと緻密なUIUX設計が組み合わさって実現していることだ。それがあってこそ、継続だけでなく、結果を出せるサービスになる。
BeautyTech.jp編集部
矢野貴久子(編集長)/公文紫都
https://beautytech.jp/
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国際商業 2018年9月号より転載