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【ビューティテック最前線】
第3回:テクノロジーとは正反対、人の気持ちが向かう先
(国際商業5月号)

April 13,2018

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アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。

そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。

国際商業とは・・・

1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。

 

http://www.kokusaishogyo.co.jp/kokusai_syougyo/

今回は2018年4月7日発売、国際商業5月号に掲載されたものをご紹介します。

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テクノロジーとは正反対、人の気持ちが向かう先

BeautyTech編集部では、日々、テクノロジーがからんだ話題を追いかけることが多い。AR(拡張現実)技術を用いたメイクアップシミュレーション、VR(仮想現実)による店頭体験、ブロックチェーンでデジタル広告の透明性を担保する企業もあれば、AI企業を買収する企業などなど……。
しかし、一方で消費者である一般の人々の側はどうなのかというと、まるでテックとは真逆の方向に向かっていることも日々感じている。大きな視点で人々が抱いている方向性を探り、そのなかで企業やブランドがどうあるべきかについて、米国などの事例を含め考えてみたい。

不確実で不安な時代、自分自身に視線が向く

マインドフルネスが世界的にトレンドであり、ウェルネスも引き続き大きなテーマであり体にいいもの、ナチュラルなものを求める傾向はますます強くなっている。2月にサンフランシスコで行われたビューティテック関連イベントで、セフォラのクリエイティブディレクターがあげた今年のトレンドはずばり「セルフケア」だ。

 

米国では、セルフケアというと、従来はヒッピー的な、ニッチな人々がやることというイメージが強かったが、いまは普通の人々が自分自身を管理し、食のみならずバスタイムや睡眠などの日常生活に価値をおくようになっている。日本の女性たちはずいぶん前からこのセルフケアには熱心だったようにも思う。

こうやって自分自身を深く見つめるようになると、次に向くのは他者への理解だ。未来トレンドを予測するWGSN Futuresでは、昨年末にニューヨークで行われたカンファレンスにて、これからのビッグキーワードにWellbeing 2.0(ウェルビーイング2・0)を掲げた。世界各地の紛争、難民、テロといった不条理な現状や、環境破壊、国家の分断など、人々は不安にさらされつづけている。

 

そのなかでは、「社会に対する責任感」が生まれ、自分のケアだけではなく、他者へのケアの気持ちが生まれてくる。
自分が健康で元気であれば、他者と一緒に行動する機運も生まれる。その文脈の中では、主語は「私」ではなく「私たち」である。#metooのスローガンが、いつしか#withyouと変わってきているのもその現象のひとつと言えるだろう。解決しなければいけない課題について連帯感のようなものが芽生えていると感じている。

こういった責任感や連帯感に突き動かされ、既存のビジネスではなかなか考えにくいアイデアをネットやテクノロジーの力を借りて、実現するスタートアップが増えてきている。それは美容業界でも例外ではない。

化粧品を工場出荷額で販売するいわば「生協」

たとえば、化粧品の製造・流通コストをすべて開示し、オンラインにて原価で販売する英国のBeauty Pieという企業がある。ユーザーは、月間10ドルか、年間99ドルで会員になると、Webサイトで販売している化粧品を工場出荷価格で購入できる。サイト上には、その工場出荷額の内訳、製造原価からパッケージコスト、物流や倉庫費用、安全管理から実験費用までわかるようになっている。

 

日本でいえば生協のような仕組みだが、購入できる金額に上限があるなどうまくバランスをとっている。この仕組みで同社が試みているのは、美しいパッケージや買う気にさせる広告費用を省いて、いいものを安く買いたいという消費者にどこまで寄り添えるかということである。
また、オンラインでの購買体験に常時ドネーションが組み込まれているブランドも誕生した。米国のThrive Causemeticsでは、顧客が商品を一つ買うと、パートナー団体を通じて、何らかの商品一つが、がん患者やDV被害者に寄付されている。

 

自分もだが、他者をケアしたい、だからどうせ買うならそういう理念をもった人やブランドに共鳴して買って、使いたい。先に挙げたそこまで強い社会派ブランドでなくても、企業側がユーザーに寄り添う姿勢があるかどうかを、消費者は敏感に感じとるようになっている。

美容ブロガーが始めた米国ブランドが急成長

Glossierで購入すると淡いピンクのバブルラップ製のポーチやロゴのステッカーなどとともに商品が届く(撮影 福田美穂)

2014年創業の米国Glossierは、100万人の読者を持つ美容ブロとガーが始めたブランドで、わずか20数種類の厳選された商品ながら売上げは急カーブで上がり、累計で8600万ドルもの資金調達を行っている。同社のメッセージ「skin first. makeup second.」はシンプルだが強い。ヘビーなメイクでなく健康的な素肌とメイクを楽しもうという理念や、ファンとのSNSでの交流、旗艦店でのフレンドリーな接客すべてに創業者の思いが行き渡っている。

Glossierのショールーム。ピンクのつなぎを着た「エディター」と呼ばれるフレンドリーなスタッフが接客(撮影 公文紫都)

その意味では、テクノロジーで、さまざまに豊かなユーザー体験を提供できるようになっているいま、企業が考えなくてはいけないのは、その背後にあるメッセージやストーリーだ。Glossierのような熱心なファンを持つ新興ブランドが矢継ぎ早に生まれているいま、既存のブランドは、彼らを注視しながら、消費者と寄り添うことがそれぞれのブランドにとってどういうことかの考えを深め、実行するタイミングにあるように思う。

 

 

BeautyTech.jp編集部
矢野貴久子
https://beautytech.jp/

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国際商業 2018年5月号より転載

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