【リサーチコラム】サンプル・テスターは生活者の「試したい」ニーズを満たせているのか?│化粧品における二次流通 (メルカリ等フリマアプリ) 利用実態調査
November 24,2021
アイスタイルには、「日本最大のコスメ・美容の総合サイト@cosme(アットコスメ)」の膨大なデータ群を分析し、マーケティングに活用する「リサーチチーム」があります。1,600万件を超える膨大なクチコミはもちろん、アクセスデータや意識調査やインタビューを通して、消費者に触れ続けているリサーチチーム。そんな彼らの知見をご紹介します。今回のテーマは「化粧品の試用について考えてみた」です!
はじめに:生活者は試してから購入したい
いまメルカリなどフリマアプリやオークションサイト(以下、二次流通)では、新品や中古品の化粧品だけではなく、サンプルも売買されています。店頭やブランドサイトに行けば無料で手に入れることもできるはずのサンプルを、お金を出して買う生活者が存在するのです。その理由を「きっと近くにお店がないんだろう」、「美容部員とのコミュニケーションが苦手なんでしょ?」と片付けてしまうことも簡単です。
しかし今回、調査を通して見えてきたのは これまでメーカーや店舗が生活者のために提供してきたサンプルやテスター、店頭でのタッチアップなどが 『化粧品の試用体験』として機能していないからではないか?ということでした。
残念ながら「化粧品を買う」という行動は、生活者にとって失敗率90%のギャンブル性の高いものとなってしまっています。そしてほぼ全員の@cosmeメンバーが「人気商品であっても、自分に合うかどうかは分からない」「化粧品を買うときは、試してから購入したい」と思っています(図1)。
だからこそメーカーや小売店は、サンプルやテスターを用意し、トライアル施策をうつなどあらゆる「試用体験の提供」に力を入れていらっしゃったと思います。しかしその試用体験が、生活者の「試したい」という気持ちを満たせていないとしたら…?
2021年9月@cosmeプロデュースメンバーの18-69歳女性 1万3,800名を対象に実施した「二次流通での化粧品購入に関するアンケート調査」から、試用体験へのニーズと現実をいま一度考えてみたいと思います。
リピート購入していても、もしかしたら生活者にとっては「長いお試し期間」かもしれない
@cosmeメンバーにおいて、二次流通で化粧品を購入したことがあると回答したのは3割弱でした。半数以上が「試したいから(試し買い)」を理由に挙げ、さらにその7割半ばが、(二次流通での試し買いの後に)正規販売チャネル(一次流通)でのリピート購入をしたことがあると回答しました(図2)。
正規チャネルで買おうが、二次流通で買おうが、「その化粧品を購入し、肌に塗布する」という行動には変わりがないはずです。それなのに生活者は 二次流通で買うときは「お試し」、一次流通で買うときは「リピート」と、同じモノであってもその役割を変えているのです。
私たちは、お試しとはサンプルやテスターを使うことであり、現品を買ってくれたらそれはもう「お試し」ではない、と思い込んでしまってはいないでしょうか?
サンプルだろうがテスターだろうが、中古品だろうが新品の現品であろうが、それどころか現品を何個もリピート購入していようが、生活者が『この商品は私のためのものだ』と確信を持てるまで、つまり価値の自覚をするまでが「お試し」なのです。
不満① 欲しい化粧品のサンプルやテスターがあるとは限らない
世の中にはサンプルやテスターなど、無料で手に入れることができる試用体験がたくさんあります。それでもなお、わざわざお金を払ってまでメルカリで試し買いをするのはなぜなのか、@cosmeメンバーに聞いてみました。これは非常に誘導的な質問の仕方であり、生活者のありのままの声を理解する方法としては不適切です。しかし今回は問題点を明確にするために敢えてそのまま聞いてみました。そこから見えてきたのは、いまの試用体験への3つの不満です。
1つめの不満が、入手の不確実性です。
- サンプルがない場合や作っていないものもある (45-49歳)
- セットでしか販売されておらず、目的の物単品売りがない場合が多い (40-44歳)
- サンプルがあっても在庫切れという事がある(40-44歳)
- 店頭で買い物してもほしいサンプルを貰えなかった (25-29歳)
メーカーや小売店が全SKUのサンプルやテスターを用意しているわけではないし、あったとしても自分が行く店にあるとは限らない。欠品していたこともあるし、それどころか(その店にサンプルがあっても)もらえないことさえある、と言うわけです。
サンプルやテスターは、生活者が試したい商品を試すためのものではなく、メーカーや小売店が売りたい商品を試すためのものになってしまってはいないでしょうか。こんな声がありました。「店頭へ行きサンプル無しで無駄足になるよりも、フリマアプリ内に目的のサンプル商品があれば、時間が無い時はとても便利 (50歳以上)」。生活者のための試用体験のはずが、無駄足と思われてしまうこともあるのです。
不満② サンプルを使っても「もし現品を購入したらどんな自分になれるか」を再現できない
2つめの不満が、再現性の低さです。
- 店頭のテスターは周りから見られているみたいで恥ずかしい。家でじっくり試したい (20-24歳)
- アイシャドウなどメイクアップ系はコスメ売り場の光と日光したでは色味が違う(40-44歳)
- デパートのBAさんに試してもらうより自分で家で普段のやり方で実際に使ってみたい (25-29歳)
- 自分が効果を感じて満足するまで使える (30-34歳)
- 化粧下地などは組み合わせるファンデーションによって違うので、色々なパターンで試したい(40-44歳)
「試用」とは、 『この商品を購入したときに、自分は/生活はどうなるのか』 のシミュレーションであるべきです。しかし実際には、テスターは店頭に固定されており、普段化粧をする環境とはあまりに異なります。商品を買ったら、美容部員さんが毎日メイクしてくれるわけでもありません。1回分ずつパウチされたサンプルや、その場でしか使えないテスターは、もはや『試用体験の提供』とは言えないかもしれません。
不満③ 金銭的・時間的・精神的コストに対し(無料であっても)パフォーマンスが悪い
3つめの不満はコスパの悪さです。
- 小さい子供と時間をかけて車で行って、大人しく待ってくれるわけでもない所にわざわざ行くのは難しいです。ですので、フリマアプリではその労力を買っていると思っています (35-39歳)
- ちょっと試して気に入れば購入したいのに、店員さんの話を長く聞かないといけないというのも負担 (40-44歳)
- (サンプルをもらうためだけに)会員登録をするのも煩わしく感じる。そうしてたくさんのサイトに会員登録してしまうとプロモーションのメールがたくさん来て削除する手間もかかる。今後使うかどうかも分からないサイトに自分の個人情報を登録するのはあまりいい気持にならない。それよりは煩わしい手間もなく気軽に1度だけ試せる点でフリマアプリ等は使い勝手がいいなと思う (30-34歳)
無料で手に入るサンプルやテスターに「コストパフォーマンス」という言葉が使われることに違和感があるかもしれません。しかしこれらの回答を見ていると、生活者は試用体験を手に入れるためにかかる費用、時間、労力、ちょっとしたストレス、そういった「代償」と感じるすべてを総合して、試用体験としての価値があるかを判断していることが分かります。
時間とお金をかけて店頭に行く必要も、周囲の目も、パーソナル情報の提供も、美容部員への気遣いや申し訳なさも気にしなくてもよい【二次流通】を、生活者が試用体験の場として選ぶことは合理的な判断とも言えるのではないでしょうか。
生活者のための試用体験とは何か?
「新型コロナウイルスの感染拡大によって、化粧品の買い方やお気持ちにどのような変化がありましたか?」という質問に対し、@cosmeメンバーの8割以上がなんらかの店頭での試用機会が減少したと回答しました(*)。バーチャルメイクやオンラインカウンセリングなど、さまざまな代替手段が提案されていますが、残念ながら失われた機会を補うには至っていません。
*店頭で化粧品のテスターを使うことが減った/店頭で化粧品のサンプルを手にする機会が減った/店頭で美容部員や店員と話すことが減った、のいずれかに反応した人の割合
失われた試用体験は、コロナが終息し店頭に人出が戻ることである程度は回復するでしょう。しかし話はそれほど簡単なことではないかもしれません。なぜなら、サンプルやテスターによる試用体験に違和感を感じ、『二次流通で化粧品を買う』 ことを選択をする生活者が現れ始めているからです。そして彼らは、その理由は(コロナとは関係なく)そもそも 『サンプルやテスターが試用体験として機能していないからだ』と言っているのです。
サンプルやテスターが、生活者の「化粧品を試したい」というニーズを本当に満たせているのか。どうしたら満たせるのか。コロナによって大きく減少した化粧品市場の回復のカギは、『本当の』 試用体験の提供にあるのではないでしょうか。
■「@cosmeにおける二次流通での化粧品購入実態調査」概要
調査目的: @cosmeにおける二次流通の利用実態を明らかにする
対象者: 15-69歳の@cosmeプロデュースメンバー 女性(@cosmeの年代構成比に合わせ割付)
調査地域:全国
調査手法:Web調査
調査名:化粧品についてのアンケート
調査時期:2021/9/10(金)~12(日)