【ビューティテック最前線】
第4回:女性による女性のための課題解決、フェムテック
(国際商業6月号)
May 23,2018
アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。
そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。
国際商業とは・・・
1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。
今回は2018年5月7日発売、国際商業6月号に掲載されたものをご紹介します。
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女性による女性のための課題解決、フェムテック
ビューティテックと近しい領域にあるのが、ファッションテックやヘルステックだ。そして、さらに近いポジションにあると編集部でも注目しているのが、昨年から米国を中心に注目を集めている「フェムテック」である。
フェムテックとは、Female + Technologyの造語で、女性特有のヘルスケア問題を解決するためのテクノロジーだ。
フェムテックの名付け親は、スウェーデン人女性で、Clueという女性の生理をデータに基づきトラッキングするサービスを展開するCEO、アイダ・ティン氏だ。Clueは生理予定日や妊娠しやすい日、PMS(月経前症候群)をデータに基づき予測してくれる。アプリは日本でも使え、UI/UXに優れ使いやすいと評判でもある。
フェムテック市場のカテゴリーは多岐にわたる
スタートアップ企業のデータベースサービスであるCB Insightsがまとめたフェムテック市場のジャンルは卵子の凍結やドナーなど不妊対策や、生理周期と排卵日の測定アプリ、骨盤ヘルスケア、セクシャルウエルネス(女性用セックストイ)など多岐にわたる。
潤滑オイルやオーガニックコットンの生理用品などのプロダクトもあるが、それらのほとんどがECやデジタルメディアを通して販売されることから、フェムテックに分類されている。
このフェムテックの台頭の背景には、いくつもの伏線がある。
いままで、人前で語るべきではないとタブー視されてきた女性特有の問題をテクノロジーでもっとスマートに解決したいと女性を中心に起業する人が増えたことがひとつ。
そして、こういったパーソナルな課題を、自宅などの安心な場所で、スマホを使って自分だけが購入し、サービスやプロダクトを受け取れるという利便性が消費者に受け入れられたこと。
その意味でビジネスチャンスが大きく、かつ未解決の課題をテクノロジーで解決するというポテンシャルに、投資家も続々とサポートしはじめたことだ。
米国で最強のVCとも言われるAndreesen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)と、SpaceXやAirbnbにも出資しているFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)は、ビッグデータを活かした測定に強みを持つ月経トラッキングアプリのGlowに出資している。また、卵子の凍結、不妊治療、卵子ドナーなどを行うPreludeの資金調達額は2億ドルと言われる。
このフェムテック市場は、2025年までに約5兆円規模にまで成長するとの予測もある。その理由は簡単で、人口の約半分である女性たちのほとんどが、化粧やファッション以上に深い悩みや課題を抱える分野でもあるからだ。
ビューティテックが、顧客体験を変え、化粧品の使い方や購入の可能性やチャネルを広げ、新興ブランドが一気に成長する土壌をつくりだしている一方で、フェムテックはまったく新しい市場を開拓できるといってもいい。日本でも、老舗のルナルナを始め、いくつかの生理トラッキングアプリはあるが、まだフェムテック市場と認識されるには至っていない。
フェムテックの背景には現代のフェミニズム
このフェムテックの台頭には、さらに時代的な流れもあることをおさえておきたい。
前号で、テックとはある意味正反対の方向へ向かっている人々の気持ちについて触れた。この不安定かつ分断された時代にマインドフルネス、ウェルビーイング2・0など、自分を見つめ他者を思いやる流れだ。
その思いやる「他者」のなかには、男性優位社会においての女性、ということも含まれてくるように思う。昨年から欧米でフェミニズムが時代の空気のようになってきているのも、ひとつの要因である。その少し前から、若きセレブやリーダーたちが後押ししているからだ。
14年7月に国連でジェンダー平等についてスピーチしたのがイギリスの女優、エマ・ワトソンだ。フェミニズムという言葉は不快なものではなく、背景にある思いを大事にし男女ともに自由であろう、という内容は多くの人々の共感を呼んだ。また、自分はフェミニストであり続けるというカナダのジャスティン・トルドー首相や、39歳の若さでフランス大統領となったエマニュエル・マクロン氏は、就任時に男女平等、性差別撤廃、性的暴力に対して厳罰でのぞむ方針をあげた。アメリカのオバマ前大統領も自分をフェミニストだと公言した政治家のひとりである。
フェミニズムはクールだ、と目をつけた企業も続々と登場。グッチは「We should all be feminists」というロゴTシャツをつくり、若い世代の共感を読んだ。マクドナルドも、国際女性デーにはMの字を逆さまにしてWとしてサポートの意を示す。
ひるがえって日本の政治やビジネスの世界を見渡すと、フェミニズムやフェムテックが当たり前になるのはまだまだ先かもしれない。
だからこそ、女性にこれだけ寄り添ってきた日本の美容業界は、この流れを強く意識する必要がある。フェムテックは、健康やウエルネスという世界的なトレンドにも合致する。きれいになりたい、健康でありたいという思いは、女性にとってどちらも欠かせないものである。
そのどちらも理解し、見た目の美しさも健康も提供できる企業こそ、人生100年時代、ずっと愛され続ける存在になれるのではないかという気がしてならない。
BeautyTech.jp編集部
矢野貴久子
https://beautytech.jp/
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国際商業 2018年6月号より転載