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【ビューティテック最前線】第19回:Kビューティートップ企業、アモーレ・パシフィックの戦略(国際商業9月号)

August 22,2019

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アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。

そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。

国際商業とは
1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。
http://www.kokusaishogyo.co.jp/kokusai_syougyo/

今回は2019年8月7日発売、国際商業9月号に掲載されたものをご紹介します。

Kビューティートップ企業、アモーレ・パシフィックの戦略

韓国産業通商資源部は、2018年の韓国化粧品の輸出額は約6800億円となり、7年連続二桁成長していると発表した。なかでも世界的に存在感を強めているKビューティーのトップ企業であるアモーレ・パシフィックの海外戦略の周到さは群を抜く。その背景には、中国市場での成功が大きく影響を与えている。

韓流ブームを活用し中国市場へ進出

韓国政府は、1998年より文化コンテンツ輸出政策を実施し、韓国製品の認知度を国外で高め輸出増大につなぐ支援戦略も同時に行ってきた。その結果、2002年には韓国のテレビ番組輸出額が輸入額を超えた。この年にアモーレ・パシフィックの主力ブランドの一つ、ラネージュが香港と上海に進出し、ウォータースリーピングマスクなどがヒットした。2004年に「猟奇的な彼女」で世界的に有名になったチョン・ジヒョンをイメージキャラクターに起用したことで、さらにブランドの知名度はアップし、売り上げ拡大を実現。また同年、ソルファス(雪花秀)が香港に進出し、ヒットした。

ソウルにあるラネージュの店舗

新商品カテゴリを作り出しグローバル・プレイヤーへ

こうした韓流ブームが背景にありながらも、アモーレ・パシフィックが中国のユーザーに信頼される化粧品企業として成功した理由は、新カテゴリー創出への注力、徹底したローカライゼーションという二つの点が大きかった。
一つ目の新カテゴリーを作り出すことによる成長については、ソルファスの例が分かりやすい。女性の体に最も大きな変化が現れる時期に起きるトラブルに着目し、肌の乾燥などに対して、朝鮮人参などの特殊素材を配合した処方で改善するとアピールし、「韓方化粧品」という新たなマーケットを確立した。このソルファスの成功で、顧客のライフスタイルを理解しつつ満たされないニーズを発見し、新しい顧客価値提案をするイノベーターとしてのアモーレ・パシフィックへと成長していく。
また、2010年代に同社のブランドであるアイオペから世界的ヒットとなるクッションファンデ製品を生み出せたのは、革新的なアイデアの生成と実装という二つのプロセスを実行するために、フラットな組織文化を作り上げたことにも起因する。

フラットな組織構造がアイデア実現に貢献

多くの韓国企業の組織が6〜10階層レベルで構成されているのに対し、アモーレ・パシフィックではよりフラットな4階層で構成されている。さらに安心して社内で話しやすい環境を醸成するために、役職ではなく名前で呼び合う習慣を作ってきた。そして、製品アイデアは、R&Dだけでなく、マーケティングやSCMなどのさまざまな部門で自由に共有し、革新的なアイデアが出てきたときには、各部門のメンバーで構成されるコラボレーションチームが作られる。複数部門のコラボレーションがスムーズに行われることで、顧客のニーズを理解し、顧客からのフィードバックを受け取れ、製品・技術開発に組み入れることができるようになっている。
さらに、新カテゴリーの市場ローンチには時間と労力がかかることを理解しており、さまざまなアイデアを試し、マーケットを作り出す努力も怠らない。
実は、クッションファンデは08年に開発されたが、11年まで国内市場では成功していなかった。まったく新しい商品は顧客にその利点を理解してもらう必要があり、さまざまな広告・販売を試した結果、韓国ではショップチャネルで爆発的な成功を収め、第一歩を踏み出せた。ただ、それを海外マーケットで成功させるには、韓国と同じやり方は通用しないという認識があった。そこで商品自体の認知を広げる手段として使ったのがユーチューブやインスタグラムなどのデジタルマーケティングだった。使い方の説明やチュートリアルを共有し、インフルエンサーにも積極的にリーチした。
新しいカテゴリーを開拓するには、忍耐と持久力が不可欠であること。しかし新しいカテゴリー開発が世界的なブランド認知度の低い企業として不可欠なことをアモーレ・パシフィックは理解しているのだ。

徹底したローカライゼーションで現地ユーザーを獲得

もう一点力を入れているのが、徹底したローカライゼーションだ。韓流ブームとともに中国市場に参入した際、ソルファスのマーケティングでは、「韓方」は中国の「漢方」に由来することを前面に押し出し、消費者に韓国と中国の共通点や親和性をアピールしてブランドの定着を図る一方、各国市場の顧客の求める製品にカスタマイズし、オペレーションもマーケットに合わせて柔軟に変更することで、市場を獲得した。
例えば、東南アジアの多湿な地域では、よりマットな質感としっとりとした仕上がりの製品を、中国の非常に寒く乾燥している気候の地域では、保湿と輝きを重視したクッションファンデを販売している。また、フランスでは、社員はほぼ全員現地採用し、韓国というイメージやコンセプトを前面に出さないマーケティングを行っている。このローカライゼーションを実現するために、各国での研究開発体制を強化している。
20年までにアジア№1の化粧品企業となる目標を掲げているアモーレ・パシフィックの成長の源泉は、創造的であるための風通しのよい組織文化を保ち、デジタルメディアの積極的な取り込みをはじめ、新しいことに時間をかけて粘り強くチャレンジし続けることにあるのだ。

 

BeautyTech.jp編集部
秋山ゆかり(経営コンサルタント)
https://beautytech.jp/

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国際商業 2019年9月号より転載

 

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美容業界におけるイノベーションを、テクノロジー 、マーケティング 、サイエンス、ビジネス などのキーワードで、あるいはビューティと近しい領域のファッションやヘルスケアのテクノロジー関連のトピックスも取り上げ、美容という領域のみならず広くカバーしてまいります。

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