【ビューティテック最前線】 第14回:競争激しいサロン業界で差別化を図る、独自の付加価値戦略(国際商業4月号)
March 13,2019
アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。
そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。
国際商業とは
1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。
http://www.kokusaishogyo.co.jp/kokusai_syougyo/
今回は2019年3月7日発売、国際商業4月号に掲載されたものをご紹介します。
競争激しいサロン業界で差別化を図る、独自の付加価値戦略
コンビニエンスストアの4倍もの店舗数があるとされる国内のヘアサロン。競争が激しいサロン業界では、大手クーポンサイトに頼りがちになる集客や、価格競争、サロン経営の難しさがよく指摘される。そのなかで「独自の付加価値」をつけることで差別化を図るサロンや、アプリサービスでサロン業界のビジネス構造そのものを変えてしまおうと意気込むスタートアップが出始めている。注目の2社、OCEAN TOKYOとJocyの取り組みを紹介したい。
髪を切る、から美容師に会いに行く場へ美容室の概念を変える
創業から5年で全国に6店舗、従業員100人を抱える人気サロンへと成長を遂げたのは、「OCEAN TOKYO」だ。
創業者で代表取締役を務める中村トメ吉氏は、これまで髪を切る場だった美容室を、「美容師に会える場」と再定義。美容師の高スキルは担保しつつ、人対人の関係性を重視し、一歩踏み込んだコミュニケーションという付加価値をつけることで、差別化を図る。カット料金は1万2,000円(※代表の中村氏がカットした場合)と高価格帯ながら、10〜20代男性が頻繁に通う。中高生も少なくない。
彼らの来店目的は、髪を切ってかっこよくなりたいという外見の変化にとどまらない。親や学校の先生に比べて年齢が近い美容師を、「頼れる人生の先輩」として慕っているため、友達でさえ言い出しにくい進路や恋愛といった悩みを解決したいとやって来るのだ。そのためなかには、カット代金を払いつつも、髪は切らずに悩み相談だけして帰っていく顧客もいるという。
「豊かな表現能力」が採用基準。教育プログラムより自発性を重視
多くの美容師もまたOCEAN TOKYOでの活躍をめざして来る。採用試験の時期ともなると、店舗前には美容師の卵が面接に必要な整理券を求め、徹夜で列をなす。
大勢の候補者の中からOCEAN TOKYOは、「豊かな表現能力」の持ち主を探し出すという。美容師としての技術は入社後に磨けば身につくが、人としての経験値や考え方、表現能力は、それまでどう生きてきたかが反映されるからだ。ここにも、人対人の関係性を重視する中村氏の強い想いがある。
教育方針に関しても、中村氏独自のこだわりがある。社員が行うルーティーンのトレーニングプログラムは用意していないのだ。「経営者としては、マニュアルやカリキュラムを作って管理したほうが楽だし、簡単なのかもしれないが、サロンを離れたら何もできない人間には育てたくない」とし、一人ひとりの個性を尊重しながら自ら考えて行動し、責任が取れる環境作りを心掛けている。「ただ、“やり切る”を体験させるために、ひたすらカットの練習をさせる期間や合宿はある」(中村氏)。そこで、オンとオフのメリハリをつける重要性を伝えているという。
美容室を毎日行く場所へ。「通い放題」で業界に一石を
美容サロンに「定額制」という付加価値を持ち込むことで、業界のゲームチェンジャーになろうとしているのが、Jocyだ。同社は、スマホアプリ「MEZON」を開発・提供する。
MEZONがネットワークするのは、高品質のサロンのみだ。Jocy代表取締役の鈴木みずほ氏を始め、複数名の関係者が覆面調査員として出向き、その結果に納得したサロンを選出。ユーザーはその中から好きなエリア・タイミングでサロンを選び、通う。メニューは、シャンプー・ブローやヘアトリートメントが中心で、一般的なヘアカットやパーマ、カラーリングは対象外となっている。

MEZONの提携サロン一例
ヘアケアの通い放題サービスには、サロン側とユーザー側、それぞれのメリットがある。
サロン側のメリットは、新しいビジネス機会の創出だ。これまで1〜2ヶ月に1回程度だったサロン通いが毎日に変われば、提携店舗は「ヘアサロン」だけにとらわれない、たとえば「その日の髪型に合わせた洋服のレンタルサービス」のような新たな収益源を生み出せる可能性がある。
サロン側のアイディア次第で、ヘアに限らず、美容やファッションといった関連サービスをトータルで提供できる場所となるわけだ。
Jocyの名に込めたヘアケアで女性の自信をサポート、の想い
ユーザー側のメリットについては、定期的なヘアケアにより生まれる、女性の前向きな変化がある。これは、鈴木氏が大手IT企業に勤めていた当時、美容室で髪の毛を整えてからアポに行くと、プレゼンの通過率が高まっていったという経験から導き出されたものだ。
鈴木氏は自身のポジティブな体験を多くの女性に伝えたいと、社名のJocy(女子)に想いを込めて、創業した。現在サービス内容は、1万6,000円〜3万5,000円の通い放題メニューに加え、「定額チケットプラン(1万500円)」を用意する。
月額定額制というアイディアは各美容室が始めてもおかしくなさそうだが、鈴木氏は、「めざしているのはあくまでプラットフォーマーとして、サロン業界全体の底上げを図っていく立ち位置。サロンの新しい経営の形を示すことが目的なので、他のサロンが定額サービスを始めることは歓迎だ」と、旧来の商習慣を覆す前向きな変革が起きるなら、どんどん参入してほしいと話す。
OCEAN TOKYOとJocyはサロン運営、支援ビジネスと立ち位置は異なるが、独自の付加価値でサロンと顧客をつなぐ両社のあり方は、課題の多いサロン業界でいかに差別化を図るか、多大なヒントを与えてくれる。
BeautyTech.jp編集部
副編集長 公文紫都
https://beautytech.jp/
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国際商業 2019年4月号より転載