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【ビューティテック最前線】
第8回:すべてをデータ化する中国、それを利用する欧米ブランド
(国際商業10月号)

October 5,2018

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アイスタイルでは、ミッションである「ビューティ×ITで世界ナンバーワン」の実現を目指してグローバルに事業を展開しています。その中で、昨今世界の美容業界で盛り上がりを見せるBeautyTechの動向には以前から注目してまいりました。海外のグループ会社も増えてグローバルトレンド情報もいち早く入ってくるようになり、これらの情報を何らかの形で発信できないだろうか、そんな議論を積み重ね、@cosmeの編集ノウハウを活かす形で新たなメディアとして、今世界の美容業界で話題のBeautyTechを中心とした美容業界のイノベーショントレンドを配信する専門メディア「BeautyTech.jp」を立ち上げました。

そんな「BeautyTech.jp」の編集部は、「月刊 国際商業」という業界を代表する専門誌にて「ビューティテック最前線」というタイトルで連載させていただいています。

国際商業とは・・・

1969年、化粧品および日用品の専門誌として創刊。川上のメーカーから川下の小売業の市場概況や経営戦略や関連省庁の動向・問題点など多岐にわたって情報発信するとともに、業界の発展に寄与すべく諸提案を続けている月刊誌です。

 

http://www.kokusaishogyo.co.jp/kokusai_syougyo/

今回は2018年9月7日発売、国際商業10月号に掲載されたものをご紹介します。

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今年の7月にシンガポール国立大学蘇州校が開催する5日間の中国参入プログラムで、中国市場のビッグトレンド含め、ユニリーバやロレアルの中国展開に関する興味深いエピソードを聞くことができた。両社が中国でのEC展開において、ラストワンマイルの物流をどこと組んでいるのか、それがなぜなのか。いまの中国市場のトレンドを含めて新しい発見もあり、それを紹介したい。

すべてをデータ化する中国、それを利用する欧米ブランド

 

8月15日に、ユニリーバが中国EC大手、JD.com京東商城)と物流で提携したというニュースがあった。国内の遠隔地にも強力な自社物流網を持つJD.comがそのインフラを外部にも開放するのだが、最初のパートナーとしてリリースされたのがユニリーバということらしい。

 

JD.comとは、中国最大のチャットアプリWeChatを運営するテンセントグループの一員で、アリババが運営するTmall(天猫)に次いで中国のEC市場第二位の企業だ。2004年の創業以来、正規品を扱うことで消費者の信頼を勝ち得て業績を伸ばしてきたが、その一方で、物流やテクノロジーへの投資も強力にすすめてきており、同じく8月に、同社の世界初となる無人倉庫が稼働を開始したことも話題になった。

 

ユニリーバは、1983年に上海リーバを設立して以来30年以上中国市場と向き合ってきた。JD.comとは2015年に提携をはたしており、同社のECでダヴなどのブランドの拡販につとめてきた。テクノロジーにも理解が深いユニリーバであり、今回のニュースはそれほど驚くべきことではないかもしれない。が、この提携話が思い起こさせたのは、前述の蘇州で聞いたJD.comの物流を支える配達員の話だ。

 

無人倉庫などの効率化を進める一方で、JD.comが自社で抱える配達員はそれぞれの家庭に荷物を配達した際、ついでにゴミ捨てやちょっとした用の手伝いをするという。中国のサービスレベルはつい最近まであまり芳しくない評判のほうが多かったというのに、だ。

 

実は、JD.comが最も重視しているKPIは、売上げではなくNPS(ネット・プロモーター・スコア)だという。この温かな親切が、そのスコアに跳ね返り、配達員個人の評価につながり、昇進や昇給が約束される。属人的な資質に頼らず、こうしたデータによる仕組み化でのおもてなしこそ、いまの中国の強みだ。偽物を排除した安心できるオンラインショッピングと、それを遠隔地まで届ける配達員の親切で顧客ロイヤルティが高まるのは間違いない。ショッピング体験がさらに豊かになることを見越したユニリーバとJD.comとの親密な関係を感じた。

配達員のサービスがJD.comの物流を支えている / Shutterstock.com

ロレアルがアリババにデータの価値を教えた

一方、ロレアルは、中国でJD.comを含むテンセントグループとライバル関係にあるアリババグループのスマートロジスティクス企業、CAINIAO菜烏網絡)と提携している。

 

CAINIAOは、自社で物流網をもつ代わりに中国の主要物流企業や国外の企業と連携し、リアルタイムで倉庫やトラックの稼働状況を把握し、拠点店舗も持つクラウドプラットフォームだ。顔認証のスマートロッカーとも連携しており、これにより、ロレアル商品を注文後、すぐに拠点店舗で受け取ることができるようになるなど画期的な物流ソリューションを提供しているという。ファミリーユースのブランドを多く持つユニリーバが、遠隔地でも親切な配達員によって届けられるのに対し、ラグジュアリー化粧品に強いロレアルは、都市部での究極の利便性を重視している。

 

ロレアルとアリババの関係については、やはり蘇州で聞いたエピソードが強く心に残った。アリババにデータの価値を目覚めさせたのはロレアルだという話だ。

 

08年、データ分析による販売戦略を得意としていたロレアルに請われるままにデータを無償で渡したジャック・マー氏は周囲からとがめられたうえ、分析されたデータを見て衝撃を受けたという。そこから急速にデータのとれるプラットフォーム戦略に転換していったというのだ。決済からシェアリングサイクルのofoや、DiDi(滴滴出行)といったライドシェアサービスまであらゆるデータを握るプラットフォームをつくりあげるための出資も行っている。

 

ロレアルとアリババはこのときからの親密な関係であることも予想がつく。18年6月には、両社で、中国で販売されるすべてのロレアル製品が環境にやさしいパッケージを使用し、プラスチックなどの廃棄物を減らす取り組みを強化すると発表した。それも何年かかけての話ではなく、今年の独身の日(11月11日)までの5カ月間でそれを推し進めるという。

ロレアルはアリババグループのCAINIAO(菜烏網絡)と提携している / Shutterstock.com

中国から世界に通用する化粧品ブランドの誕生も

ユニリーバとロレアルは、物流のテクノロジーシフトをすすめる中国企業にうまくのっているように見える。が、中国側にとっても大きなメリットがあるはずだ。市民が求める商品をきちんと流通させると同時に、どんな化粧品が誰に、どれだけ必要とされるのか、あらゆるデータも集まる。中国ではまだ、グローバルで通用するような化粧品ブランドは生まれていないが、ドイツのインダストリー4・0にならって中国政府が掲げる中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025によって、製造過程もスマート化し、すべてのものがネットにつながりIoTからIoE(Internet of Everything)となる時代がやってくる。化粧品一つ一つにセンサーが内蔵され、究極に便利で使い心地も効能も素晴らしく、グローバルで人気になる中国ブランドの化粧品が誕生するのもそう遠くない気がしてならない。

 

BeautyTech.jp編集部
編集長 矢野貴久子
https://beautytech.jp/

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国際商業 2018年10月号より転載

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PROFILE

170810矢野

Kikuko Yano

BeautyTech.jp編集部 

雑誌編集、ネットメディア立ち上げを経て、プロデューサーとして、さまざまなネットメディアの編集、デジタルマーケティングに関わる。
Beauty Tech.jpは、サイト立ち上げ準備からプロデューサーとして陣頭指揮を執っている。10歳の息子との戦いごっこで体力づくりの毎日。

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